2008年10月08日

リアリティのある仮名をひねり出せ(四)

 そう思う間もなく、クライアントが苦い顔になった。
「名前がだけどさあ……ところどころ、
 こんなのないんじゃないの? って思うんだけどねえ。
 よくある名前にしてって、いったはずなんだけどねえ」
 なに?!
「そうですか? たとえばどんな名前ですか?」
「ここにある××××。こんな名前、ないよ」
「いや、ありますよ。現実的にある名前を組み合わせてですね……」
「ないね! お~い、スタッフ~!
 見てくれよ、この名前! ないだろ?」

 やってくるスタッフのひとり。だが、いかにもイエスマンと
 いった感じで、否定されることは彼が答える前にわかる。
「こんな名前、ないよなあ?」
「あ、この地方にはないかも……ですね」
 えっ、この地方?! つまり、仮名のセンスを
 あんたが住んでるこの地方都市の感覚にしろと?!
 そんなこといわれたって、こっちはわからないよ!

 先生が言った。
「たとえばさあ、○○○○とかさあ」
 具体的に書けないが、N氏は絶句した。
「そんな名前は逆に大都会にはありませんよ。
 先生、この本は全国で発売されるんですから」
「変えてくれ!」
 先生は一歩もゆずらず、仏頂面になった。

 よくある名前は都会と地方ではまったく違う。
 実際には都会で聞く名前も、地方都市によっては
 そんなの一度も聞いたことがない、というケースはよくある。
 ちなみに、仮名がイニシャルであってもこだわる人はいる。
 「K・OさんをY・Hさんに変えてくれ」のような要望だ。
 そのほうがいろんな意味でリアルなのだ、という理由だが、
 それこそ、そんなことになぜこだわるのか、本人にしかわからない。
 泣かされるのはライターである。

                 The End
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投稿者 Napori Takao : 07:00