2008年08月26日
ある演奏会(4)
ご主人の話が佳境に入った。
「でね、1週間たったら、広報誌がその人の
ところへ送られてきたわけ。で、さっそく中を開いてみると、
自分が正坐して、パワーをおしいただいてる写真が
デカデカと載って、そこに大きい見出しで
こんなようなことが書いてあったんだって。
『見よ! あの大音楽家も教祖様のエネルギーを
受けたからこそ、見事に演奏を成し遂げたのだ!』」
「それはやだなあ……」
N氏は自分に置き換えて考えてみた。
どこかの超能力者の本の代筆を頼まれて、いい原稿が書けたとする。
だが、それが「超能力を送ったからだ」とかいわれたら、
こっちの労力を軽視されている気がする。
「音楽家の人は怒ってないんですか?」
「いや、べつに。ケラケラ笑ってましたよ。
『あ~こんなへんなカッコで写ってる!』なんてね」
「そうですか……大物になると、
小さいことなんか、気にしないのかなあ」
「どうですかねえ。でも、新興宗教ってのは、
そういうことやるんですねえ。ま、信者ほしいだろうしね」
「ボクも気をつけなきゃ」
「え、なにを?」
「い、いえ、べつに……」
思わず、大物になった自分を想像して
つぶやいてしまったN氏であった。
4200円の調髪代を払い、帰り道で焼き鳥を買い、
自転車をこぎながらN氏は思った。
「その音楽家のギャラって、いくらだったんだろう?
十万単位なのかな? それとも百万単位なのかな?
やっぱり新興宗教が出す金額なんだから、でかいんだろうなあ」
そのころ、自転車のカゴには異変が起きていた。
焼き鳥の袋から串が突き出て、袋を破り、
カゴや前輪が、ベトベトのタレまみれになりつつあったのだ。
N氏が帰ってから、泣きながら
自転車をふいたことはいうまでもない。
The End
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