2008年07月03日
真実を書くな(六)
「いちばん問題なのは、幕舎(軍隊の宿舎)で起きた火事のところです」
「なんですか」
「『火事で焼けた者は肉の屍になった。それを夢中で食った者がいた。
食うもののない、異常な状況下であり、私は彼らをとがめる気にはなれなかった』
とありますが、これは全部載せられません」
「遺族感情ですか」
「はい」
「だれがだれを食ったなんてこと、書いてないじゃないですか」
「それでも、そこで亡くなった方がいます。遺族からクレームがきます」
「それじゃ、事実をかけないじゃないですか」
「そうなりますね」
イヤミは続ける。
「それから、残った肉片を埋葬したところの描写です。
『心も体も疲れ切った我々に、供養という気持ちはもてなかった。
嫌々ながら、ソ連兵に命令されて仕方なくやったのである』のところです」
「それがなにか?」
「仕方なく埋葬した、という表現が問題ですね」
「それが真実なんですよ。この表現の前後を読めば、
精魂尽きた状態では心の余裕をもてなかった、という意味は伝わるでしょう」
「真実でも配慮は必要です。これが小説で仮名の形だったら、
もう少し手を入れれば何とかなりますが、それでも配慮はします。
でも、自叙伝としてのこの文章には問題が吹き出しそうです。
そもそも人肉を食った兵士がいた、などは事実なんですか?」
イヤミのこの発言に、とうとうN氏はキレた。
「当たり前でしょ! これは、著者が取材中に何度も涙を流して、
ほんとに苦しそうに話した内容なんですよ!
クライアントを疑うんですか。ウソをいってるんじゃないかなんて、
あんまりにも失礼ですよ」
ヤイヤイヤイ! だまってきいてりゃ、おめえさんヨォ!
いよいよN氏の逆襲だ!
~ 次回へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
![]()
↑ ↑ ↑ ブログランキングに参加しています。クリックで応援いただけるとありがたいです。
コメント
コメントを送ってください