2008年07月01日

真実を書くな(四)

「次に登場人物の職業を明かすことについてですが、
 『質屋さん』というのが困ります」
「なにがダメなんですか? 質屋は質屋でなにも悪くないでしょ」
「人によっては、その表現がイヤだという人もいるんです」
「じゃ、『自営業を営み』とか、なんとかにするってことですか?」
「そうですね」

「それじゃ、だれのことだかわかんねーっつうんだよ」
「なんですか?」
「こっちの話です! だから、イヤミさん、それじゃ、
 Aさんが望んでる人探しの本にならないじゃないですか」
「しかし、これは当社としてはここまで載せられませんので」
 どこまでイヤミなヤツだ。

 彼はそのまま指摘を続ける。
「それから、著者の中学時代の先生の記述に問題があります」
「問題ないでしょ、そこは」
「先生が暴力的に描かれてますよね」
「それは前後を読めばわかるじゃないですか、著者の意図が。
 生徒だった著者は、当時、先生の暴力を恨んではいたけど、
 満州引き揚げ後に再会してからは、いちばん仲良くさせてもらっている
 恩人だという話になってるでしょ。こういう人の出会いがあっても
 いいじゃないですか。事実ですよ。それにもう先生は亡くなってます」

「いいえ、困るんです。『血が出るまで殴られた』という記述はまずいです」
「じゃ、『先生は腹を立てるたびに、私の頭をやさしく撫でてくださったものである。
 それはもう心地よくて、全身がとろけるようだった』とか、書きますか?!」
「冗談はやめてください」
 イヤミはまったくとりあわない。

                 ~ 次回へ続く
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投稿者 Napori Takao : 07:00 | コメント (0)

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