2008年06月30日
真実を書くな(三)
まもなく編集者、イヤミ雄三から電話が入る。
「すいません、Nさん、ちょっとこれじゃ困るんですよねえ」
「どの程度オッケーなのか、知りたかったんですよ」
苦笑しながら答えるN氏。
「近頃、トラブルが増えてましてね。出すほうは過去のことを
洗いざらい書いて気持ちがいいんでしょうけど、
小さなことでも書かれて勘にさわる人もいるんですよ」
「へえ」
ふてくされるN氏。お前のその話しかたも、勘にさわるぜ!
「今からファックス送りますんで、チェックしてみていただけますか」
「はい」
とどいたファックスをみると、惨憺たるものであった。
グチャグチャにチェックが入った原稿をみて、
がっかりするとともに、ムカッ腹がたってくるN氏。
「ずいぶん入ってますね」
「まず、何人かの住所を書いている所です」
「名前だって苗字だけだし、なにも中傷するようなことは
書いてないでしょ。住所だって市までですよ。
お世話になった恩人の方と、引き揚げのときにちりぢりに
なってしまって、ぜひお会いしたいから知りませんか?
という目的なんですよ。そもそも何人かは亡くなってるじゃないですか」
「うーん、微妙なところなんですよね。相手が故人だから
もういいじゃないか、という理屈は通用しないんですよ。
こういうの、出されるだけでイヤだという人もいますし。
遺族がそこに住んでいたらプライバシーの侵害ってことになるでしょ」
「じゃ、県までならどうですか」
「うーん……書くこと自体がねえ」
「それじゃ、この本は成立しないじゃないですか」
イヤミの冷静な話しぶりには、心が冷える。この地獄の番人め。
~ 次回へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
![]()
↑ ↑ ↑ ブログランキングに参加しています。クリックで応援いただけるとありがたいです。
コメント
コメントを送ってください