2008年06月26日
真実を書くな(一)
事実を書いたそばから、出版社からダメ出しを食らうことがある。
とくに戦時中の回想記となると、彼らは神経をとがらせる。
クライアントは書いてほしい内容なのに出版社が止めるという、
ライターとすれば、なんともイヤな立場に立たされるのだ。
「実はね、私、戦争のことを家族の誰にも話せんできたんです。
だから、今回の本でね、話せなかったことをわかってもらおうと思って」
今回のクライアントである80代のご老人、Aさんは目を伏せた。
「なにも本が出て、すぐに読んでもらおうとも思っとりゃせんです。
家族には私が死んでから読んでもらってもいいんです」
「そうですか……」
「ただね、自分の家族やまわりの人だけじゃなくてね、
できれば、これを書き残して世間に出すことで、当時、
お世話になった人もおりますし、仲間も探したいと思っとります。
あそこで生き残った彼らにもう一度会いたい。お礼もいいたいんです」
「わかりました。納得がいくまで、いろいろお話しください。
私もとことんお手伝いさせていただきます」
へたをすればN氏はこの方のお孫さんくらいの年だ。
世代が大きくはなれると、文章の好みは大きく異なる。
文体ひとつにも非常に 気をつかわなければならない。
こういう場合、クライアントが書いた文章を読ませていただき、
どんな文体なのかを頭に入れて書き始めるわけだが、
これはなかなか難しい作業である。
そのへんの事情も含めて、Aさんにご説明すると、
「細かいことは気にせずに、入れてほしい内容だけは
おさえてもらえれば、それでけっこうです」と答えてくださった。
~ 次回へ続く
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