2008年06月20日

インナーワールドを体験せよ(十一)

 翌日のことである。
 会社に出勤した妻が出て行った直後、
 誰かが玄関から入ってきたのがわかった。
「ん? どうした、忘れ物か?」
 すると台所でその気配は止まった。
「あー」
 水を飲んだ様子で、おいしそうにため息などついている。

「なんだ、水飲みに帰ってきたの?」
 N氏は妻かと思い、キッチンをのぞいた。
 ところが、そこにはだれもいなかった。
 えっ? 気のせいか……

 それからN氏はふたたび仕事をするため、机に向かった。
 広告の仕事もしているN氏は、グラフィックデザインとの兼ね合いから
 文字数を決められてコピーを書くこともある。
 この日はとりあえず、だいたいの文字数を決めてコピーを書き上げた。
 これから文字数の確認をして、微調整するか。
 そう思ったときである。

 椅子にすわったN氏の右斜め後方に、ふと人の気配がした。
 そして、その声はいった。
「終わりだな」
 えっ? N氏は振り返った。やはり、誰もいなかった。
 聞こえたはずの今の声は、奇妙なことにN氏自身の声に似ていた。
 しかし、少しだけ違う。もう少し、歳を重ねたような落ち着いたトーンだった。
 しかも、耳で聞いたというよりも頭の中に直接響いたような声だった。
 
 気をとりなおしてN氏はパソコンに向かった。
 原稿を確認してみると、文字数はぴったりとおさまっていて、
 手を入れる必要はなかった。さっきの声はN氏が確認する前に、
 仕事が終わったことを告げたことになる。
 幻聴なのか。こんなことは初めてだった。

                 ~ 次回へ続く
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土日は連休します。また月曜日にお会いしましょう。

投稿者 Napori Takao : 07:00 | コメント (0)

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