2008年04月28日

緊急リリーフをせよ(四)

「へえ」
「それでずいぶん先生、怒っちゃいましてね。
 でも、本人はケロッとしていて、
 『すいません、本書けなくなりました!』って言い残して、
 韓国へいっちゃいました。週刊誌で北朝鮮関係の取材をするとかで」
「そっちの人だったんですね」
「いやあ、あれはミスでした。ちゃんと調べてる時間がなかったんですよ。
 ナポリさんに頼もうと思ったんですけど、
 ほら、ちょうどB社長の著書頼んでた時期だったんで」

 N氏はA出版編集者、安見茂 出蔵(やすみも でるぞう)氏と
 初めての取材に向かった。
 今回のクライアントは医師、しかも、怒っている。
 初回から苦難の旅である。

 病院の会議室に現れた医師は手術後の疲れと、
 これまでのいきさつから、やや不機嫌だった。
「このたびはまことに申し訳ありませんでした……
 本日は新しいライターをご紹介させていただきますので。
 なんとか、今度こそは先生のご意向に沿った形で、
 原稿を進めさせていただきたいと思います」
「ああ、そうですか……」
 安見茂氏が頭を深々と下げる。
 N氏も頭を下げる。

 こんなとき、N氏はちょっと不満だ。
 問題の当事者は逃げてしまって、なんの縁もゆかりもないN氏が、
 これまた自分がやってもいないことに対して
 頭を下げなければいけないのだ。
 でも、出版社の社員である安見茂氏は「同志」である。
 彼のためにも失礼な態度をとって、迷惑をかけたくない。

 そうはいっても、N氏にもちょっと意地がある。
 安見茂氏が頭を深々と下げるのに対して、
 N氏は頭を下げる角度をちょっと浅めにするのだ。
「ナポリと申します。よろしくお願いいたします」
「ああ、よろしくお願いします」
 医師は口とは裏腹に、ちゃんとやってよ、
 という眼でちらっとこちらを一瞥した。

                 ~ 次回へ続く
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投稿者 Napori Takao : 07:00