2008年04月25日

緊急リリーフをせよ(参)

「連絡しても電話に出ないので、聞いた住所を訪ねてみたんですよ。
 すると、そこはボロアパートの一室でした。
 どうやら住んでるところは、別だったらしいんですがね。
 あとで消息がわかって、いろいろ話してみたら、
 その人は60歳のライターさんなんですけど、
 『この仕事は自分にはできない』と、泣きが入りました」
「そうですか……」
「手術の基礎知識やら、専門的な部分やらをどうまとめるか、
 ずいぶん試行錯誤したらしいですけどね」

 こういうのを、世間では「ケツをまくる」という。
 プロたるもの、一度引き受けた以上、よほどの理由がなければ、
 「できない」と泣きを入れることは許されない。

 心が折れた60歳のライターとは、はたしてどのような人物だったのか。
 どの業界でもそうかもしれないが、下積みを積んだ者と
 積まない者では、能力の厚みがちがうのではないか。
 その差が、こんなギリギリのところで出るのだ。

「で、もうひとりのライターさんなんですけどね、これが
 けっこういい加減な人でして……もともと先生を
 怒らせたのはこの人なんですよ」
「へえ」
「いやあ、時間がなくて、ほかのライターさんに
 紹介してもらったのが失敗のもとでした」
「書けなかったんですか?」

「ええ、広告や雑誌しかやったことのない人だったんです。
 原稿に小見出しばかりいっぱいたてるし、
 文体もニュース調というか、事件調というか、
 ちょっと変わってましてね。それに加えて、取材でも先生に
 『それって、こういうことスか~?』みたいな、軽いというか、
 なれなれしい態度をとったそうで……」

                 ~ 次回へ続く
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投稿者 Napori Takao : 07:00