2008年04月03日
密室取材に耐えよ(七)
「だいぶ殴らせたんですか?」
「まあ何発かですね。殴っても殴ってもまたニヤニヤして
そいつの前に立つもんだから、またキレちゃって殴るわけですよ」
「でも、それだけやられたら、さすがに体にこたえるんじゃないですか?」
「いや、そのくらい、現役時代を考えたらなんでもないです。
顔のアザなんて、1、2週間もすれば全部ひきますからね。
ヤクザのリンチからすりゃ、しょせん相手は素人ですし、まあ
たいしたことはないんです。一発殴られるたびに、
ハイ50万! ハイ100万! ハイ150万!
って思いながらやられてましたよ。ハッハッハ!」
一方的に殴った相手は、そのうちに疲れて逃げていったという。
「それまでには、私の車に乗ってた人間が相手の車の
ナンバーを控えて、まわりの目撃者もしっかりチェックして、
『警察に証言してください』って頼んでました」
ひと騒ぎ終わったあとで、Aさんは警察に訴え出た。
といっても、通常の方法ではないのだが、
悪用されてはまずいのでこれは書かない。
その後、相手の男は300万円の賠償金を支払うはめになった。
それだけではない。後日、Aさんの車は「なぜか」、またもや
路上で後続車にオカマを掘られ、その一件でもAさんは賠償金を
手にして、東京上陸後、あっというまに事業資金を増やしたのである。
そんなAさんの話が終わったのは夜7時くらいだったろうか。
恐ろしかったのは事務所を出るときである。
N氏は植え込みの陰から、いつ立ち上がるか知れない
ヒットマンに警戒し、周囲にじゅうぶん注意しながら、足早に立ち去った。
以後、取材や原稿の手直しなどの打ち合わせも含めて、
N氏は5回ほど足を運んだだろうか。
結局、襲撃者は現れなかったものの、いつも夜道を帰りながら、
自分が狙われているかのような気分を味わった。
出版社の営業マンは怖がって同行するのを避けていたが、
やがて「彼はなぜ来ないんだ?」とAさんがご立腹、
営業マンも後半にはシブシブ顔を出すはめになった。
Aさんの主張は正しい。こういうことは信頼関係が第一なのだ。
仕事のジャンルはちがっても、『男は絆』なのだ。
筆客商売心得、「取材中の巻き添え殺人に注意」。
これにて一件落着。
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投稿者 Napori Takao : 07:00