2008年04月01日

密室取材に耐えよ(五)

N氏はおそるおそる、小瓶を覗き込んだ。
瓶の水が茶色いのはホルマリンか。
たしかに、小指はかなり収縮しており、球体に近くなっていた。
爪がついているのがよくわからないほど、しわくちゃだ。
『死して屍拾う者なし』、無情の世界。

「引退したときにツメたんですけどね、
まあ、いろいろ事情があってんで、受け取ってもらえずに、
まわりまわって自分のところへもどってきましてね」
「そうですか」
「これはホルマリンかなにかに漬けてるんですか?」
「いや、ウイスキーですよ。 ツメたのは第一関節からなんだけど、
 もうだいぶ縮んで小さくなっちゃったでしょ?
 こいつもね、行き場がないんじゃかわいそうだから、
 こうやって今でも神棚に祀ってあるんです」

床屋で切り落とした髪の毛とはちがって、
人体の一部がそこにあるとなると、
異様なオーラを放つものである。
もともと目の前にいる人とつながっていた指だと思うと、
ガラス瓶のむこうから、もとの鞘におさまりたいと
訴えかけているようにも見える。

いつしか、夜になった。
話がのっているときは、こちらから「そろそろ……」とは
いいづらいのが取材の辛いところである。
そのとき、カーテンのむこうをさっと影が通り過ぎた。
まさか、ヒットマンか?!

                 ~ 次回へ続く
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投稿者 Napori Takao : 07:00