2008年02月21日

横山大観展(4)

赤いロングコートのオバサンが展示された掛け軸の前に立つと、
横山大観の絵がチカチカしてまったく見えない。
もちろん、オバサンは気にすることもなく、
ガラスケースの中の掛け軸に目を凝らす。
どうやら眼が悪いらしく、顔がどんどんケースに近づいていく。

たしかに大観の作品は、鶴が小さく山のふもとに
佇んでいたりするので、そうやって観なければ、
何が描いてあるのか、わかりずらいのだ。

ガードマンはおもむろに、ポケットから白い布を取り出した。
しょうがないな。またオレの出番だ。
そのとき、ガラスケースに近づきすぎたオバサンの
鼻の頭がガラスケースにくっついた。
白い油の跡がポツン。彼女は何事もなかったかのように去った。

ガードマンはすぐに走って駆け付けた。
そして、ガラスケースについたオバサンの鼻の油を
白い布で素早くぬぐう。よし、これでだいじょうぶだ。
ところが、その先に目をやった彼は落胆した。

5メートル先ではさっきのオバサンが、
今度は両手をガラスケースにつけて、かぶりついている!
しかも、オバサンは両手を延々と平行移動させて、
鼻や手のひらの油でケースはベトベトだ。
くそっ、大観先生の作品になんてことするんだ!
ケースを油まみれにしないでくれ!

ガードマンはおばさんのあとを追いかけて、
感情を殺し、しかめっ面で淡々と手や鼻の油をふいていった。
ところが、彼はまだ気づいていなかった。
彼のわずか5メートルうしろから、新たに目の悪いオバサンの集団が、
手のひらと鼻をべっとりつけてガラスケースに見入っていることに。
彼の白い布は展示時間が終わる頃には、オバサンたちの
いろんなところの油で真っ黒になっていることだろう。
めげるな、負けるな、若きガードマン。

                 The End
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投稿者 Napori Takao : 07:00