2008年02月05日

濡れぎぬ(4)

 その声がしたかと思うと、トイレの入口で
 バケツやらモップやらをガタンガタンと持ち込む音がした。
 掃除のおばさんじゃないか!
 これから男性トイレの掃除をするのだ。最悪だ……

 細い隙間があったので、そとを覗いてみる。
 いや、不審な行動はやめよう。
 むこうからだって、見えるのだから
 こっちから見ていたのがわかったら、気持ちが悪いだろう。

 もう面倒だから出て行こうかなあ。
 でも、掃除のおばさんはどう思うかなあ。
(あら、イヤだわこの人。
 こんなもの持ち込んで、いったいなにかしら)
 仕事が終わったら、同僚にも話すかもしれない。
「さっきさあ、なんだか女の子の人形みたいなの、
 流行ってるじゃないの。あれなんていうの? あんた知らないの?
 まあいいわよ、とにかくあんなのをトイレに持ち込んでた人がいたのよ。
 気持ち悪いわよねえ! 出てきた人の顔? 見たわよ!
 なんだか中年でいやらしい顔してたわ!」

 どんどん悪いほうに展開していき、無実のはずの
 自分の尊厳が踏みにじられていく妄想をしてしまうN氏。
 いっそのこと、自分でこれを鞄にいれてあとでゴミ箱に捨てようか。
 いや、なんかこれを持っていくことがイヤだ。
 なぜ、オレがそんなことまで。

 まったくここに置いていくなんて、ひどいヤツだ。
 とんだ迷惑じゃないか。自宅にこんな箱を残しておけない、
 ということは既婚者か、それとも未成年か。
 置いていったヤツも、やっぱり罪悪感というか、
 引け目は感じたのだろうか。

 悪いことをしていないのに、悪いことをしているような居心地の
 悪さとともに、トイレの片隅でクリスマスイブが刻々と過ぎていく。
 遠くから合唱隊のほがらかな歌声が聞こえてきた。
 掃除のおばさんが帰るのは、いつのことであろうか。

                 The End
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ↑ ↑ ↑ ブログランキングに参加しています。クリックで応援いただけるとありがたいです。

投稿者 Napori Takao : 07:00