2007年12月30日
頭髪への執着(5)
店主は説明する。
「皮膚移植した髪の人はね、不自然なほど生え方がキレイなんですよ」
「へえ」
「つまりね、ふつうの人はツムジがあったりしますよね。
お客さんみたいにひどい人になると、5個もある」
ひどい、はよけいだ。
「人間の髪の毛はね、頭の前頭葉のところに生えている毛が
みんなまっすぐ下に向かってるかっていうとそうじゃない。
両サイドの毛もまっすぐ下に向かっているわけじゃなくて、
横に向かって生えていたりする毛もあるわけです。ところが、
皮膚移植の人の頭髪は、最初からある種の髪型を想定したうえで
移植されるから、不自然なほどいい髪の生えかたになるわけだね。
お客さんなんかとはぜんぜん違うもの」
なんか、もよけいだ。
「形成外科はたいしたもんですよ、髪型のデザインまでやっちゃうんだから。
でもね~、若いときはそれでいいかもしれないけど、歳とってきたら
どうなのかねえ。だって、移植しなかったところの毛は、年齢とともに
後退していくでしょ? なのに、移植したところの毛だけが元気だから、
残っちゃうわけですよ。そうすると、荒れ地にところどころ雑草が
生えたような状態にならないんですかねえ! どうするのかなあ!」
「たしかに……」
「それだけじゃなくて、やっぱり切り取って縫いつけたところは、
今は技術がいいといっても、多少の傷痕はつかないのかねえ!
おじいさんになって坊主になったら、傷だらけの頭で過ごさなきゃいけない!
なんてことにならないのかなぁ! 私にはわかんないけど、どうなんだろうねえ!」
「どっちにしても、あんまりいいことなさそうですね」
「まあ、どっちにしろ、お客さんには移植はもう遅いね。
だいたいみんな、30代でやってますからね」
「えっ! もうそのへんで覚悟決めちゃってるわけですか」
「聞いてみると、奥さんや恋人に言われたとか、
子どもに言われたとか、そういうのがきっかけらしいですよ」
「そうですか……」
ちょっとせつない師走の床屋で18:00。
数十年後、傷だらけの頭をした老人の群れが
街を行き交わないよう、願うばかりである。
The End
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投稿者 Napori Takao : 07:00