2007年10月26日
朝から根まわし
田中は電話を切り、苦笑した。
「ぼくのとこ、朝から電話かかってきちゃうんですよ」
迷惑そうに言うが、どこかうれしそうだ。
だれだって頼りにされるのはうれしいことだろう。
だが、そういう心の隙に彼らは忍びこんでくるのだ。
実際、彼らの頼みを聞いたばかりに、田中はA運送にまわされた。
ホイホイサービスの人間とはある程度の緊張関係を
保っておかないと、利用されるだけということだろう。
それにしても、日雇いなどをやっている田中が
携帯電話をもっているのが不思議でならなかった。
私は2000年当時、まだ所持していなかった。
ライターの仕事をしていても、まだ街角の公衆電話も多く、
それで事足りた時代だった。基本料金も高かった。
通信費が日雇いひと晩分の稼ぎ、ということもあるだろう。
そんなところから節約すべきなのではないかと漠然と思ったものだ。
田中がふたたび話しかけてきた。
「さっきの電話ね、例のデブのこと話したら、どうも会社としても
あいつのせいでA運送がいやだって言う人が多いらしいんですよ。
ほんとうのところはやめさせたいらしいね。でも、あんなところじゃ
後釜も見つからないし、それで僕が彼の代わりになってくれるなら、
あいつをやめさせることもできるから、ぜひお願いしたいって
やんわり言ってきました」
「そうですか」
「でも僕だって、この仕事をずっと続ける気はないですしね」
田中はちょっと気分がよさそうだった。ホイホイサービスでは
こんなことをいろんな人間にささやいているのだろう。
田中は新宿駅で「求人誌買ってきますよ」と言って、
キオスクに歩いていった。その後ろ姿に、彼のせっぱつまった
生活を感じた。そして、私にはライターの仕事があることが
ありがたく思えた。そして、与えられた仕事をこれまで以上に
責任をもってやっていきたいと思った。
私たちは連絡先を交換しあって、小田急線のとある駅で別れた。
日雇い1日目終了後08:50-09:30 ~ To be continued
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