2007年10月24日
哀れな獣たち
更衣室で着替えをすませていると、名前を呼ばれ、給料を渡された。
安物の封筒には、ボールペンで乱雑に¥10,000と書いてある。
ベテランたちの封筒をみると、¥11,000だった。会社がいうところの、
「重要なポジションを任せている、頼れる人たち」とは、
たった千円の違いである。そんな歪んだ不満は会社には向けられず、
鬱屈した憎悪となって新入りに向けられるのだろう。
帰りのマイクロバスが迎えにきて、ひとりずつ乗り込んでいく。
この運転手はA運送の人間らしい。態度がおだやかで、ベテラン連中も
気を使い、「おはようございます」などと言いながら乗り込んでいる。
が、座席にすわるとふたたびまわりに緊張感を漂わせた。
彼らは仲間同士、となりにすわることもなかった。そして所在なく、
押し黙っていた。さすがの坂田も疲労困憊で笑顔がない。
そもそも「おい」「お前」だけで呼び合うのだから、
いくら長い時間、いっしょに働いていても仲間意識がないのだろう。
倉庫街をバスが走るうちに、日差しがまぶしくなってきた。
日を浴びた日雇いたちの顔は青白かった。
ベテラン連中は日々の疲労が蓄積しているのだろう、
まもなく死人のように眠りこけた。
起きているのは、現場であれほどばてていた、
私たち新入りだけだった。金をもらったとはいえ、
バスを下ろされるまでは、だれも気が抜けなかったのだろう。
放心状態の私に、となりにすわった田中が聞いた。
「住まいはどちらですか?」
「××です」
「僕は○○なんですよ」
「あ、お近くなんですね」
「ちょっと遠回りなんですけど、一度東京に出て、それから
新宿に出て小田急に乗ろうと思うんです。東京からなら中央線の
始発だし、新宿まですわっていけるでしょう?」
「そうですね。じゃ、僕もそうします」
遠回りだが、もう少し話がしたい気分もあって、つきあうことにした。
「お疲れ様でした」
運転手のねぎらいを背中に、日雇いたちはそれぞれのねぐらに散っていく。
あれほど現場では態度のでかかった太っちょが、バスを降りたとたん、
出勤する人の渦に背を向けて、コソコソと帰路をたどっていく。
世間に引け目を感じているような彼の姿は
活気のある朝に、とても薄っぺらく、哀れに見えた。
日雇い1日目08:05-08:20 ~ To be continued
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