2007年10月18日

夢をつかむために

 田中のひとり語りは続いた。自分の思いを
 話せる相手に、しばらくぶりに会えたようだ。
「女房に怒られましたよ。これからどうするの、って。
 でもね、私、これから事業起こそうと思ってるんですよ。
 桑の葉って知ってます? A県の農協でね、村おこしのために
 桑の葉の栽培を大々的にやりはじめたんです。あの桑の葉って、
 ものすごく身体にいい成分が入ってるんですよ。それをね、
 私が契約して、病院のほうに手をまわしてね、製薬会社に
 このドリンク剤を作らせようって話なんです。

 ほら、B社が出してるドリンク、野球のNがCMやってる、あれ。
 あれ売れてるそうなんですよね。だから、これから作る瓶の感じも
 ああいうのにしようって決めてあるんですよ。製薬会社は
 病院の言うことに弱いですから、病院のルートのほうから
 つついてもらったら、おおかたやる気になったらしいです。
 ちゃんと軌道に乗るのがあと1、2か月ってとこですから、
 それまでは私も働かなきゃいけないんですよ。1本売れるごとに
 5円入ってくるマージンです。もうちょっとのガマンです」
 田中はニコッと笑った。

「しかし、どうしようかなあ。これじゃもうここでやりたくないし。
 また夕勤のほうにまわしてもらおうかなあ……」
 大きな夢を語ったあとで、明日の日雇いの心配をする
 現実との落差が、私にはなんだか妙におもしろく思えた。

話の途中で、1メートルほどあけて、べつの男が近くにすわった。
ベテランの横暴ぶりに対する、防御反応なのだろう、
自然と新入り同士はかたまろうとする気配があった。
とくに田中と私のように初対面同士で話をしているところなら
あたりもよさそうだし、安心して寄ってくるのである。

だが、彼らは警戒心もあって、話をしなかった。
近くにすわるものの、話好きの田中が自分に関心を向けそうな
雰囲気を感じると、トイレにいくような素振りで、さりげなく
場をはずした。いろいろ勘ぐられたくないこともあるのだろう。

       日雇い1日目04:20-04:40 ~ To be continued
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投稿者 Napori Takao : 07:00 | コメント (0)

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