2007年10月06日

将棋指し登場

 私に遅れること数十分ほどして、背の低い新入りが
 フロアーに顔を出した。本業は『将棋指し』だが、
 食えないのでここへ来たらしい、と田中から聞かされた男だ。
「こっちに行けって言われたんですけど」
 なんの権限もない私に、そんなことを言われても困る。
「あ、だったら、あの眼鏡かけた人が、
 ここを任されてるみたいなんで聞いてみてください」
 私は遠くにいる坂田利夫を指さして言った。
「はい」 

ところが、『将棋指し』はとうなずいたものの、坂田のところには
行かず、ぐずぐずしている。私は無視して荷物を分けた。
将棋指しにはさっさとむこうに行ってもらわなければ困る。
仕事中に立ち話などしていたら、怒鳴られかねないのだ。

 将棋指しがまた近づいてきた。
「あの、休憩とりました?」
「ええ」
「えーっ?! 僕行ってないんです!」
 彼は顔をしかめて、さもつらそうに言った。
 無精鬚を生やした顔や額からは、玉の汗が流れている。
 それは私もいっしょだが、10分の休憩がとれないのは
 たしかにつらいに違いない。だが自分で坂田に交渉するのも
 できないらしく、私に救いを求めるように見た。
 30を越している年らしいのに、世話のやける男だ。
 今夜はこれまでたっぷりと怒鳴られただろう。

「じゃ、いっしょに来て」
 私は将棋指しを連れて、坂田のところに行った。
「すみません、この人、まだ休憩行ってないそうなんですよ」
 坂田はせわしげに動きながら、言い捨てた。
「休憩なし! そんなものはもともとねえんだ!」
「えーっ?!」

『将棋指し』は全身をのけぞらせて叫び、表情を歪ませた。
甘やかされて育てられた子供のように見えた。

        日雇い1日目22:00-22:10 ~ To be continued
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投稿者 Napori Takao : 07:00