2007年09月28日

ざらつく緊張感

ロングヘアーに声をかけられたメガネの男は、
着替えたまま椅子にボーとしていたが、その言葉に
はじかれたように「はい!」と、とびあがった。

 車のなかで知り合ったばかりの田中が、私に耳打ちした。
「あのメガネの人、このあいだ、ほかの現場で会いました。
 彼は『将棋指し』らしいですよ」
「将棋指し? ですか?」
「ええ、将棋のプロらしいですけど、なかなか勝てなくて、
 ここでときどきやることにしたらしいです。
 あの世界もいろいろたいへんなんですね」
「そうですか……」

だらだらと全員が下へ降りていくすきに、私はあわてて
ロッカーから弁当を出し、飯をかきこんだ。休憩時間もわからない。
とにかく少しでも食っておかなければもたないだろう。
飯の味がわからなかったが、半分ほど食い、残りはとっておいた。

集合場所、というのはA運送の事務所だった。
入口にちかいところに大きなテーブルがあり、
古い日雇いから順番に、入口から見て左側の
椅子の奥からすわっていき、ふんぞりかえった。
新入組はそれに対峙する形で、右側にならんだ
椅子にすわり、向かい合った。

同じ会社から雇われているというのに、妙だった。
両者のあいだの空気が、緊張感で張り詰めている。
古株たちは腕組みをしたり、そっぽをむいたり、
ふてくされたり、下をむいていたりしている。
仕事を知らない新しい人間と、同じ職場で
働かなければならないことにイラついているようだ。

しかし、彼らがこちらとまったく目を合わせようと
しないのは、自分に自信がないのだろうか。
私は初めて見る人間ばかりなので、それをいいことに、
彼らや事務所のなかをじっくりと観察した。

        日雇い1日目18:05-18:15 ~ To be continued
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投稿者 Napori Takao : 07:00