2007年09月07日
さよなら飯場
部屋にもどって、つらそうに起き上がった
同部屋のふたりに最後の挨拶をした。
「おはようございます」
「ああ、新人さん、もう起きてたのかい?」
三崎が聞いたので、笑って答えた。
「満期ですから」
「そうだよなあ」
彼は顔をしかめながら、あくびをした。
「名堀君、それじゃあ」
平松も眠たくてしかたがないらしく、寝ぼけたような口調だった。
「いろいろ、ありがとうございました。お世話になりました」
ゆっくり話す時間もなく、すぐに飯場全体があわただしくなった。
川をさかのぼる鮭の大群に似た群れが食堂へ向かう。
終点の時間軸に立ちどまった私はもう異質な存在だった。
朝食を食い、歯を磨くうちに、遠くの現場の者がいなくなり、
荷物をまとめるうちに近くの現場の者が姿を消した。
事務所に向かい、堀内から粗末な封筒に入った給料を受け取った。
「また頼むね」
彼は媚びた笑顔で言った。
「すいません」
私は笑顔で首を振って拒否し、彼に背をむけた。
もう立場は逆転したのだ。
私は自分の社会へ帰り、二度とここへは戻らない。
事務所を出ると飯場はひまな葬儀場のように、
がらんとしていた。ひとりだけ残されてしまったのだ。
車で追いかけて現場に向かいたい気分になった。
諸経費にビールやタバコ代を引かれて、
6万くらいはあっただろうか。たしかな記憶はない。
部屋にもどり、平松の枕の下に2千円を入れておいた。
なんだか、わからないかもしれない。
でも、自分の気持ちがすめばそれでいい。
「ありがとうございました」
私は小さくつぶやいて頭を下げ、汗臭い部屋を出た。
飯場生活23日目05:00-08:00 ~ To be continued
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