2007年08月27日
老土工と若者
尾形は額の傷に脱脂綿を貼っていたが、今日は絆創膏だけである。
その絆創膏を顔をしかめたまま、ベリッとはずしてしまった。
「いいんですか? ばい菌はいっちゃいますよ」
「へ、このぐらい」
タバコをくわえたので、私は自分の百円ライターで火をつけ、
差しだした。尾形は黙ってつけ、煙をうまそうに
ゆっくりと吐いた。昔は女にもてたろう。
「その傷、たいへんでしたね」
「ああ。まったくろくなもんじゃねえ……」
土手にあげた汚泥が、そばで悪臭を放っている。
「頭打って出血したんだが、救急車が来たときに、あわててヘルメットを
かぶったもんだ。かぶってねえと 労災降りねえからな。でな、
オヤジが労災の保険降ろそうとしたんだが、一度事故にあって
降ろすとなると、あれ、次からひとりずつのかけ率が高くなんだろ?
自動車事故とおんなじだ。俺のも大事故じゃねえ、3万程度だったからな。
『かえって損だ』ってんで、オヤジは自腹切ったんだ。フッ、よくある話だ」
また口許をほんのわずか、歪ませた。
「で、こんとき俺は2万7千かかったって、オヤジに報告してあるんだが、
実際は俺も社会保険入ってるんでな、
3分の1で済んだんだ。差額の1万8千はこれさ」
金を懐に入れる仕草をした。
「フッ、だってな、そのくらいのことはいいじゃねえか。
なんの楽しみが あるわけじゃねえしよ。
飯場に帰って酒飲むくらいしか、楽しみなんかねえだろ?」
「そうですね」
素直にうなずいた。尾形老人はべつの飯場の土工だが、
おなじ飯場の土工のように話しかけてくれる態度が、
なんだか、とてもうれしかった。
仕事を終えて、飯場についたのは今日も5時すぎだった。
食堂でのんびりビールを飲んだ。食堂の管理をしている力士は、
もう私に悪態をつかなかった。私のまわりはいつのまにか、
友好的な男たちばかりになっていた。そんな飯場が心地よくなっていた。
飯場生活16日目を終えて、4日の休みが入ったので、
12勝4敗(-6千円)。あと3日だ。3日働けば、塀の外に出られる。
飯場生活16日目09:30-20:00 ~ To be continued
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投稿者 Napori Takao : 07:00