2007年08月24日
病人、どつかれる
ジャイアンツはヒヒヒ、と髭面に歯をむきだして笑った。
「かわいそうだけど、しょうがねえから、医者や看護婦の
目を盗んで、意識のはっきりしねえ当人を」
寝ている人間の横っ面をはたく手ぶりをした。
「『起きろ、この野郎! 起きろ!』って怒鳴りつけちゃ、
ひっぱたいてな。ハハハ!」
「そんなことして、だいじょうぶだったんですか?」
「ああ、だいじょぶだよ、あんなもん!
最初はオッサンも、ウーウーばっかりで苦労したけどなあ、
そのうち小さい声でモゴモゴ言い出したんだ。
で、秋田に住んでる姉さんだか、なんだかの連絡先が
わかってな。引きとりに来てもらった、ってわけだ」
「芸名って、やっぱり多いんですか?」
ジャイアンツはうなずいて、三木のほうに顎をしゃくった。
「とくに出稼ぎの連中に多いらしいぜ。ヤツらは
出稼ぎにきて、飯場が気に入らなかったら、さっさと
トンコしちまおうって腹さ。2、3日で出ていくヤツもいる」
「そんなヤツにも、ホリさんは金を送ってやるらしいんだけどよ。
ほとんど宛先不明でもどってくるらしいぜ。かと思うと、
10年もめえに7日間働いてトンコした野郎が、10年後に
ひょっこりあらわれて、『あんときの金くれ』なんてことも
あるらしいぜ、ハハハ!」
彼はひとしきり笑い、また声を落とした。
「そうそう、アンちゃん。さっきのオッサンの話だがよ。
それだけじゃ終わらねえんだ、これが」
「どうしたんです?」
「オッサンが倒れた次の日になあ、あの尾形さんが『縁起でもねえ』って、
ヤツが倒れた場所に塩まいたんだよ。そしたらそのすぐあとだ。
こんどは自分が足場板踏みはずして、コンクリートにデコ打ちつけて、
5針も縫う羽目になっちまった。ほれ、そこにあんだろ?」
ジャイアンツが顎をしゃくった場所には、
赤茶色に変色した血痕が、まだ点々と残っていた。
飯場生活15日目12:40-17:00 ~ To be continued
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