2007年08月18日

第14章 老境 ~向こう傷の男

尾形老人の年恰好は伊藤や三木とおなじくらいだが、
好々爺の雰囲気のある伊藤や、殻にこもった三木とは
まったくちがうタイプだ。顔は痩せて骨ばり、
老境の今もなお、暗く鋭い眼光を放っていた。
私が飯場で出会いたかった、アウトロータイプである。

 そんな尾形が作業中に、思わず屁をはなった。
 音を聞きつけたジャイアンツは、すっとんきょうな声をはりあげた。
「おいおい、尾形さんやめてくれよお! ただでさえ、
 メタンガスだらけのとこで屁なんか、こかねえでくれよ!」

 尾形は凄みのある笑いで振りかえった。
「なんだ、ばれちまったか……」
 額に怪我をしているらしく、脱脂綿が貼られていた。

昼飯は全員がまとまって食うので、だれがなにを
話しているか、注意していれば聞こえてくる。
めったに口をきかない三木が、徳山組のオヤジと
話すのが聞こえて、私はぎょっとした。

「わしが入ってるのは10人部屋なんですがね、
 たまらんのですよ。 酒飲んで怒鳴るヤツはいるわ、
 暴れるのはいるわ。それに狭苦しくて……」
 私は三木が初めてしっかり話す声を聞いた。
 展示品の骸骨がしゃべりだしたような驚きだった。

 私は非礼を承知で、穴のあくほど三木の顔を見つめてしまった。
「寺本は屋根がトタンでしょう。2階だから熱がこもっちまって、
 ろくろく夜も寝つけんです。飯もわしらが倒れちまうような
 栄養のないもんばかり食わせとるし。聞いたら、
 おたくはステーキが出ることもあるそうじゃないですか」
「ああ、週一回程度だけどね」
 オヤジは冷静にこたえた。

      飯場生活14日目11:30-12:30 ~ To be continued
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投稿者 Napori Takao : 07:00 | コメント (0)

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