2007年08月11日

制圧

車は、急に減速できないものだ。慎重にブレーキを踏みながら、
バスのボディはこんなに長いものなのか、と思った。
何度かに分けてブレーキを踏みながら、バスと後続車の
車間距離をうかがった。距離はまだ1メートル。
頼む、入れてくれ!

ウインカーを左に出したとたんに、激しいクラクションが
鳴らされた。対向車が目前に迫ってきて、正面からも
クラクションが響く。入れさせてくれ、早く!
すると、バスがスピードをさらにあげて、
車間距離がいくらかあいた。今だ!
私は急ブレーキを踏み、ハンドルを左へ切って
バスと後続車のすきまに車を飛び込ませた。

キキッ! 急ハンドルにタイヤがきしみながら、
車はかろうじてバスのうしろにもぐりこんだ。
その瞬間、バスから吹き出る灰色の排気が
吹きつけられ、視界がなにも見えなくなった。

対向車はクラクションを鳴りっぱなしにしながら、
そのまま横を通りすぎていった。
そのとき、圧倒的な風圧がすれちがいざま、
ざざっとバンの横腹にたたきつけられた。
その振動を感じたとき、私ははじめて本当の恐怖に身が震えた。

フロントガラスはまったく見えないままだ。
ここで急ブレーキをかけられたら、まちがいなく追突だ。
しばらくすると、やっと視界がうっすらと見えてきた。
バスのエンジン部分の錆びた網が、恐ろしげな
鋭い歯のように目前に迫っていた。

私は慎重にスピードを落とし、車間距離を空けた。
後続車が怒りにまかせて、いつまでもクラクションを鳴らしていた。
知ったことか。私は妙に冷酷な気分になっていた。
後部座席は水を打った静けさに変わった。私も話さなかった。

噂が広まったのだろう、この日を境に
私の運転にケチをつける人間は誰もいなくなった。
私は危険と見返りに、うるさい連中を制圧できたのだった。

      飯場生活13日目17:42-24:00 ~ To be continued
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投稿者 Napori Takao : 07:00 | コメント (0)

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