2007年08月01日

狂犬

盆休みの2日目。私たちはふたたび、朝飯を食ってから
酒を飲みはじめた。連日の肉体労働に耐えてきた身には
何日休んでも休みたりなかった。この日、どこかのビルの
内装工事の助っ人に、急遽、人手がいることになり、
堀内に相談を受けた平松だけが現場に出た。
働きたくてしかたがなかったらしく、喜んで出かけていった。

 私は三崎と2人で酒を飲みながら、
 前から気になっていたことを聞いてみた。
「3年前、この飯場にイワケンって人がいたらしいですね。
 面接の水野さんと新入りいじめをしてたとか」
「えっ、だれに聞いた?」
 三崎はぎょっとした。

「熊沢さんに、ちょっと」
「ああダンディさんか」
 彼は深いため息をついた。
「そうか……もう3年になるのか。そうだよなあ、
 もう、ここの人夫でヤツを知ってるのは伊藤の爺さんに
 黒ちゃん、ダンディさん、それに俺くらいだろうな。
 岩谷健次。通称イワケンだ」
 そして眉をひきしめた。
「ヤツは古株でな。現場からもどってくると、水野とつるんじゃあ、
 飯場の門を閉めちまって、新入りを駐車場でイタめたもんだ。
 先輩に挨拶しねえ、ってのがその理由だった」

 フンと鼻を鳴らした。
「でもよ、新入りにはだれが古いのか、
 どう挨拶すりゃいいのかなんて、わかるわけねえよ。
 なあ、そうだろ、新人さん?」
「そうですね」
 初日を思い出した。初めて食堂に入ったときの
 冷淡な視線。威嚇。観察者たち。

「古株の人たちにも手が出せなかったんですか?」
「ああ。俺もそうだったが、イワケンは酒が入っちゃあ、
 ドスを振りまわしやがるからな。実際、なだめるどころじゃ
 ねえんだよ、もう狂っちまってる。
 ヤツらには何人かの新入りが半殺しにされたっけ」
 三崎は蚊取り線香の煙が静かに立ち昇るのを見つめた。
 私は話の続きを静かに待った。

      飯場生活11日目07:00-08:30 ~ To be continued
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投稿者 Napori Takao : 07:00 | コメント (0)

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