2007年07月28日
土方の誇り
それから菅谷はさっきの告白を照れたのか、
「用事を思いだした」と言うと、2階の10人部屋へ帰った。
菅谷の人生の残滓が部屋に残ったまま、
私たちはしばらくだまって酒を飲んだ。
最初に口を切ったのはダンディだった。
「俺は昔、写植の会社を経営してたんだ。成功したとたん、
酒と女に溺れちまって家に帰らなくなった。
気づいたときには会社が傾いてて、これさ」
右手を上に向け、手のひらをパーの仕草で開いて見せた。
そのまま、コップの底を見つめている。
「俺とおんなじだ」
三崎が笑うと一瞥をくれた。
「ギャンブルはやんねえよ」
「ああそうだそうだ、ごめん」
「ま、同じようなもんだな」
ダンディは口の端で笑った。
それから確信に満ちた眼で私を見た。
「俺は6年間もこんな仕事してるけど、あいつとはちがう。
恥ずかしいなんて、これっぽっちも思っちゃいない。
鳶の仕事で高いところに登ってるわりに金は安いが、
ふつうの人にはできないことをしてるんだ、
それなりの誇りは持ってる」
「はい」
「俺も昔、いろいろあったからな。結局、こういう仕事が
合ってるんだ。なにしろ資本金がいらねえだろ、
俺自身が資本なんだから。稼げば稼ぐだけ銭になる。
そうだろ?」
「はい」
みんな、どうして若い私にばかり、熱く語ったり、
同意を求めようとするのだろう。心の底に激しい
孤独の飢えがあるようだった。
ダンディはそのまま黙りこくってしまった。
飯場生活10日目10:30-11:30 ~ To be continued
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