2007年07月19日

家に帰りたし 金はなし

 酔った平松は饒舌になった。
「まったくやんなっちゃうよなあ。もどってきたら、
 明日から3日間、盆休みだっていうじゃねえの」
「えっ、そうなんですか?!」
「なんだい、知らなかったのかい、新人さん?」
 三崎があきれた。

新入りにはなにもかもが突然で、さあすぐに従え、
と言われるのが飯場だ。平松の復帰でもうひとふんばりと思った矢先、
出鼻をくじかれてしまった。私の「勝ち星」はここまで、
7日の出勤、初日分の差し引きで8勝1敗(-1500円)だったが、
これで自動的に8勝4敗(-6千円)となる。

 平松は自分が舞い戻った理由を話しはじめた。
「本当言うとね、女房と喧嘩して、今、家飛び出してるとこなんだ。
 だから満期明けにすぐ帰るってわけにもいかなくてね。ここで働いて
 6万弱になったんだけど、そんな金じゃどうしようもねえからさ。
 市内でパチンコやったんだけど1万くらい負けちまってね。あとは酒飲んで、
 カプセルホテル泊まって……でも、そのうちに娘のことが気になっちゃってねえ」

「今いくつ?」
 三崎が聞いた。
「高校生」
「そうか、そりゃ心配だね」
「こっそり家のぞいたんだよ。そしたら、いてさあ」
 うれしそうな、切なそうな顔だった。
「『お母さん、夜12時頃までパート出てるよ』って言うんだよ。
 なんだか娘がかわいそうになっちゃってね……1万だけわたして、
 残りの金で競馬やったらオケラになっちまった」

その晩、平松は寝言で「むつみちゃん」と娘の名を呼んだ。
寝顔は父親の顔をしていた。私はその顔が見られてよかったと思った。
ゲイの坊主が酔っぱらって、妙な歌を歌いながら
灯りが消えた飯場の廊下を通りすぎていった。

 家に帰りたし 金はなし
 家に帰りたし 帰れない

      飯場生活9日目21:40-10日目01:30 ~ To be continued
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投稿者 Napori Takao : 07:00 | コメント (0)

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