2007年07月18日

カムバック

 振りかえると、風呂場の軒先で、
 金歯と銀歯を見せて平松が笑っていた。
「平松さん!」
 電燈が背後からあたっているので、私には後光が
 射しているように見えた。
「もどってきちゃったよ!」
 照れた顔で笑った。

 今夜の平松は私のために訪れた特別な使者にさえ思えた。
「ほんとですか!」
 喜ぶのは失礼なのだが、気をまわせなかった。

「俺も風呂入ろう」
「はい、どうぞ!」

 平松は石鹸とタオルを手にして入ってきた。
「聞いたよ。たいへんだったんだって?」
 なにげなさを装って言った。そのいたわりの響きに、
 急に熱いものがこみあげて声にならない。だまって頭をさげた。
「無理もないよ。あの車、ハンドルは重いし、ブレーキいかれてるんだから。
 もう6回も7回もエンコしてるらしいぜ。ホリさんもわかってんのに
 運転させるんだから、ひでえよなあ。俺さ、『だれか今に事故起こすぞ』って、
 さっき言ってやったよ。そしたらやっと『修理に持って行く』ってさ」
「そうですか……」

平松も堀内の言葉を鵜呑みにはしていないだろう。
私を安心させるために言ってくれているのだ。
おそらく運転手のだれかが大事故を起こして廃車にしない限り、
あの呪われた車と手を切ることはできない運命だろう。
私はあやうくその役目を担うところだった。

私はふたたび平松に救われた。その晩は
麻井が置いていった2000円でビールを買ってきた。
三崎は事故やらエンストの噂を聞いたはずだが、
態度はいつもと変わらなかった。

      飯場生活9日目21:10-21:40 ~ To be continued
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投稿者 Napori Takao : 09:02