2007年07月12日

立往生

 バスが突然、エンストをおこしたのだ。ファミリーレストラン近くの
 路肩に停めて、ふたたびエンジンをかけるが動かない。
「てめえなにやってんだ!」
 しびれを切らして怒鳴った男が、ふたたび怒鳴る。
 ほかの者たちはため息や舌打ちをして、いまいましげに見ている。

「俺がやってみる。交代しよう」
 腕組みして見ていたダンディ熊沢が言った。それから
 運転席にすわり、いろいろ試してみたがエンジンはかからない。
 全員に押してもらってみたが無駄だった。
「こりゃもうだめだ。ホリさんに電話入れてくるわ」

ダンディが車を降りて公衆電話をさがしに行くあいだに、
気の短い土工から順に車を降りはじめた。
ひとりが積んでいた車にヘルメットを蹴とばし、
降りてからも街路樹を蹴とばして歩いた。やけになって
歩道に寝ころぶ者もいたが、もどってきたダンディにいさめられ、
ふてくされてすわりこんだ。
やけくそに歩道で小便をはじめる者もいた。

最後に私がバスを降りると、土工たちは私を避けるように
放射状に広がった。彼らが蹴とばし、唾を吐いている
いまいましい対象は車ではなく、私だったのだ。

「ったくよ!」
 菅谷がアスファルトにペッと唾をはいて、私を上眼づかいに睨んだ。
 その強い力に心臓が刺し貫かれる思いがした。
 こんな正直に感情の発露をした人間たちに
 私はこれまで出会ったことがなかった。
 菅谷の態度はそのとどめを刺すような行為だった。

 私は小さな街灯の下に腰を下ろした。
 ジャイアンツとサイボーグ老人の三木がそばにやってきた。
「ひでえもんだ……」
 ジャイアンツがほかの土工たちに眼をやりながら言う。
 土工たちの態度を批判しているようにも聞こえた。
「ついこのあいだエンコしたばっかなのに、修理にも出さねえから
 こんなことになるんだよ。1か月前にも動かなくなったんだぜ」
「いや3か月前も……」
 三木もボソボソ言ったが、聞きとれなかった。

      飯場生活9日目19:10-19:30 ~ To be continued
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投稿者 Napori Takao : 07:00