2007年07月07日

自己嫌悪

 幸運にもバスはブレーキが効く前にエンストした。
 丘の中腹に乗りあげて停まったとたん、「静岡強いなあ」と
 声をかけてきた土工が態度を一変させて怒鳴った。
「おいおい、しっかりしろよ、バカ野郎!」
「すいません!」
 彼は真赤な顔で睨みつけていた。

完全な私のミスだ。菅谷は露骨にうんざりした顔をして、
ジャイアンツは呆れ、伊藤と熊沢は無言だった。
さっきまでの私への親近感はもう彼らにはない。
たったひとつのミスで私たちの関係は一変してしまった。
私はあたふたとアクセルを踏み、Y字路から車を出した。
恥ずかしさと悔しさでいたたまれなかった。

初日から気を使って築いてきた人間関係だった。
たったいちどのミスでまた信用を失い、私は「なんとかやっている新入り」
から「たよりない新入り」に逆もどりしてしまった。
せっかく伊藤の爺さんにも目をかけてもらえるようになったのに。
自分が情けなくてしかたなかった。

運転手だからこそ、背中に感じる嫌悪の視線からは、いくら
走っても逃げられない。これからあと1時間も息の詰まる思いを
続けなければならないのだ。早く飯場に帰って、
ひとりで頭をかかえていたほうがよほどいい。
せっかくうまいこといきかけたのに。飯場になじむことができたのに。

たったいちどのミスで信頼を失ってしまった。
うまくやってきたのに。どうして油断したんだ。
くそっ! 

焦りが運転をさらに乱暴にさせた。
眼のまえの十字路の信号が青だった。
いつもなら減速してから曲がるのだが、速度を落とさずに右折した。
曲がったほうに白のセダンが信号待ちをしていた。

 すれすれを通り抜けたと思った瞬間、ゴリッと音がした。
 ひとりがすぐにうしろを振りかえった。
「おい、車こすったぞ!」

      飯場生活9日目17:50-18:10 ~ To be continued
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投稿者 Napori Takao : 09:49