2007年07月06日

Y字路に突っ込む

 ふたりの男はそんな空気などおかまいなしに話している。
「あ、そうだ。だいじょうぶかなあ、俺」
「どうしたんだよ?」
「あのさあ、俺、ここで働きだしてから、朝立ちがねえんだよ」
「なんだ、それかあ! 俺も全然元気ないよ」
「あ、そうなの? なんだそうなのかよ!」
 私もそうだと思った。初日に腰を痛めたためではないかと、
 内心、心配していたのだが、ちがうらしい。
 私たちは精力の根源まで使い果たしていたのだ。

 このとき私は、初めて運転中に気をそらした。
 Y字路が眼のまえに見え、右にハンドルを切りかけた。
 会話に加わっていなかった土工のひとりが怒鳴った。
「おい、ちがうぞ!」
「えっ?」
 びっくりした私はあわててハンドルをもどしてしまった。

曲がり切れるはずはない。車はY字路の真ん中につっこんだ。
田舎道なので、縁石のむこうは勾配の急な赤土の丘になっていた。
が、乗りあげたら車がひっくりかえってしまう。

急ブレーキを踏むが、効かない。
ふつうの車なら、じゅうぶんに停まる距離だ。
祈る思いで力いっぱい底まで踏みつけた。
が、バスは縁石を乗りこえ、丘がみるみるせまった。

冷汗が流れた。
人間はほんの一瞬のあいだに、さまざまなことを考えるものだ。
瞬間、最悪のイメージが脳裏をよぎった。
バスはひっくりかえりながら道路にもどされ、Y字路の2方向から
ほかの車が突っこんでくる。時間経過のあと、土工たち全員が
病院のベッドで包帯を巻いている姿。そして飯場の事務所では、
堀内が青ざめた顔で請求書の束を私に突きつけている……

効いてくれ! 効いてくれ、ブレーキ!

      飯場生活9日目17:40-17:50 ~ To be continued
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投稿者 Napori Takao : 10:13 | コメント (0)

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