2007年07月03日
1日で消えた男
土工たちが噂を聞きつけて、小屋のまわりをとりかこんだ。
菊地は小屋のそとに出て、彼らを招いた。
「どうぞ、みなさん飲んでください!」
男たちは子どものようにニコニコして列にならび、水を飲んだ。
口々に「うまい……」と全身から絞りだすようにため息をもらしては、
次の者に柄杓を手わたした。だれもが1杯では足りないので
ならんで一巡待ち、2杯目を飲む。水が足りなくなると、
だれかの水筒から水が注がれた。氷は作業がはじまっても
数時間かけてゆっくり溶けながら、土工たちの命をつないでいった。
一日が終わり、菊池が車に乗り込んできたとき、
私は彼に頭を下げた。
「菊地さん、ありがとうございました。助かりました。
みんなもすごく喜んでました」
「いいえ、みんなに喜んでもらえばいいッス、自分は」
菊池は照れ笑いを浮かべていた。
翌朝。飯を食っていると、ジャイアンツが私に耳打ちした。
「アンちゃん、昨日、氷買ったあいつの噂、聞いたか?」
「なんですか?」
「昨夜のうちに飯場を出てったそうだぜ」
「えっ?」
「なんでもヤクザ仲間に追われて、アパートに帰れねえっていうんで
ここに逃げこんで姿をかくしてたらしい。本人が話したって
言うんだからまちがいねえよ」
「そうですか……」
「1日しか働いてねえし、自分の勝手な都合で出て行くんだから、
給料は受け取れねえって、ホリさんに丁寧に礼を言って出てったそうだ」
私は多くの土工が喉をうるおし、喜ぶ姿を澄んだ瞳で
見つめていた菊池を思い出した。その瞳と毒々しい牡丹の刺青は、
不協和音となって記憶に焼きついた。
飯場生活8日目12:50-9日目05:30 ~ To be continued
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コメント
彼はヒト吹きの涼風‥??
うぅ(つ_`*)
気持ちが沁みますね。
投稿者 ユエ : 2007年07月03日 12:05
ユエさんへ
コメントありがとうございます。
涼風でしたね~
あちらの業界でムチャをせずに、
今でも生きてて欲しいなあ、と思ったりします。
投稿者 ナポリタカオ : 2007年07月03日 13:00