2007年07月02日

命の氷

「氷買いに行きましょう」
「氷、ですか?」
 私は疲れているので動きたくなかった。
 気乗りのしない私を彼はせかした。
「みんなで飲むんです。ね、そうすればみんな涼しいじゃないですか。
 だれかがやらないと。自分、金出しますから」

「はあ」
 私は強引に運転させられるはめになってしまった。
 勝手に出かけてなにか起きれば、運転手の責任である。

「このへんのどこかで氷屋が見つかるでしょう」
 現場から広い通りに出ると、彼は車を降りて、通行人に
 氷屋の場所をたずねた。氷屋など、今どき知っている人間が
 いるのかと思ったが、何人目かに聞いた地元の老人が知っていた。

それから氷屋に行き、一貫目の氷を買った。いくらだったのか、
どうやって持ち帰ったのかも、よくおぼえていない。
ともかく大きなポリバケツに入れ、柄杓も用意したのだが、
これも買ってきたものだったのかどうか、思いだせない。
それだけ時間がなく、あわてていたのだ。
時間までにもどらなければ、現場監督のタヌキにどやされる。

 もどってポリバケツに氷を入れ、古島建設の小屋にあった
 水筒の水をもらい、氷の上からかけ、柄杓をなかにおいた。
「あとは氷が溶けるでしょう。どうぞ!」
「いいえ、どうぞ!」
 先に飲むわけにいかないのだが、「いいえ、どうぞ」と勧められ、
 それでも辞退して勧められ、何回かのやりとりでさすがに
 菊地があきらめて先に飲んだ。

「ああ、うまい……さ、どうぞ!」
「すいません。じゃ、いただきます」
 喉を流れた冷水が、頭の芯まで震わせた。
「ああ、うまい……」
 ポリバケツに頭をつっこんで、息が止まってしまうまで
 ガブガブ飲みたかったが、欲求をこらえて菊地に柄杓を返す。
 菊地が2杯目を飲んだ。
「ああ、うまい……」
 おたがいにこの言葉しか出なかった。
 飯場でいちばんのごちそうだった。私も受け取り、ふたたび飲んだ。

      飯場生活8日目12:30-12:50 ~ To be continued
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投稿者 Napori Takao : 07:00