2007年06月28日

背中の向こうに

菅谷を歓迎会に招待するのを忘れていたが、ビールはあっというまに
なくなってしまった。私はテレビに近い寝床を三崎にゆずり、
以前のままの、いちばん隅の布団に寝た。
新入りなのだから、これが妥当な礼儀なのだが、隅に寝ていれば、
寝相が悪い仲間に蹴飛ばされる危険も半減するのだ。

三崎は遊び人のようだが、同じ人種の菅谷とちがい、
刹那的な捨て鉢さがない。顔や背中のむこう側に
なんとなく家族の存在が透けてみえる。たとえ今は会えなくても、
どこかに自分の血のつながった存在がいるという安心感があり、
それがおだやかな表情をさせているのかもしれない。
では、あの菅谷という男が醸し出す孤独感の裏には、
どんな人生があるのだろう。

それにしても、19歳の私は彼らの人生にくらべれば、
なんて薄っぺらい人生なのだろう。人生の荒波らしい自体にも
出会わず、義務教育を受けて、そのちょっと先の大学をたかが
中退したくらいで、行き詰ったなどとと勝手に思い込むなんて。
人生とはなにかを知りえたわけでもない。
そんな少ない人生経験で脚本家になれるのか。

翌日。飯場に入って8日目を迎えた。運転手以外は10日で
満期の契約だ。伊藤老人や黒谷のような数少ない古株のメンバーは、
満期後も継続して仕事をしているが、ほかの土工はほとんどが
新入りや出戻り組と入れ替わっていた。私のあとから飯場に入った
土工が多くなってくると、こちらは年齢で圧倒的に下でも、
「あんたらより少しは先輩だ」という気分にもなってきた。

ふつうの仕事に加えて運転手をつとめるのはしんどいが、
それだけ顔が広くなり、人間関係は円滑になるのはたしかだった。
私はいつしか、飯場や現場でいろんな年上の土工たちに、
気軽に声をかけられる存在になっていた。
依然として呼び名は「アンちゃん」「新入り」「新人さん」だったが。

      飯場生活7日目21:40-8日目06:00 ~ To be continued
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投稿者 Napori Takao : 09:35 | コメント (0)

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