2007年06月16日

没落した男たち

「なにかあったんですか?」
「ん? まあな……3年もまえの話だけどな」
 私も昨夜、食堂で買ったハイライトに火をつけた。
 何度吸っても、やはり私には苦すぎる。

「イワケンってヤツがいてな。岩谷健次、通称イワケンだ。
 こいつが古株のひとりで、あのころはずいぶん幅をきかせてたもんだ。
 新入りが入ってくると、水野といっしょによくヤキを入れてな」
「水野って、面接やってる水野さんですか?」
「ああ、そうだよ。昔は飯場で働いてた」

「おだやかな人に見えますけど」
 面接した水野を思い浮かべたが、酒乱とは思えない。

「ああ、あれはふだんはいいヤツなんだよ。ところが
 酒飲むと手がつけられなくてな。事務所勤めになった原因は
 飲酒運転で事故ったからさ。飲んでも運転がけっこううまかったから、
 あいつも調子に乗ってたんだな。いや、事故るなんてことは
 いっしょに乗ってた連中さえ考えもしなかった。信頼してたんだ……」

「それがいつかの晩、帰りがけに酒飲んで走ったとき、
 道路のまえを耕運機が横切った……あんなのライトついてねえだろ、
 見えにくいんだ。それがまた急に路上で停まっちまったもんだから、
 ヤツが、あっと思ってハンドル切ったら、運悪く反対車線の
 対向車と正面衝突だ……ありゃあ、酒飲んでなくても
 やってた事故かもしれねえが、あんな運転つづけてりゃ、
 遅かれ早かれ、やってたことはたしかだろうな……」

「今、事務所で人夫の手配やら面接やらやってるが、ほんとなら
 首切られても当然だ。飲酒運転なんだからな。まあホリさんは
 情に厚い人だから、そこまではやれなかったんだろう……
 ヤツの酒癖は最近だいぶ、なおってきたらしいけどな」
 ダンディは皺だらけの顔で少し笑った。

「イワケンって人は、それからどうしたんですか?」
「死んだ」

 彼はそれきり、黙ってしまった。私はダンディを口ごもらせるイワケンという
 存在に興味をもち、そのうち、だれかに聞いてみようと思った。

      飯場生活6日目12:40-13:00  ~ To be continued
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投稿者 Napori Takao : 10:46 | コメント (0)

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