2007年06月11日

理解者

 黒谷は私のそんな反応にとまどったのだろうか、
 ひと呼吸おいて、開けた窓に肘をのせ、景色を見た。
 しばらくして口を開いた。
「もしなにかいうヤツがいたら、俺の部屋へ来いよ。
 食堂のすぐそばの部屋で伊藤の爺さんと同室だからさ。
 生意気なヤツは、俺がこれだよ」
 がっちりした拳を自分の顔のまえで握りしめていた。
 拳から肘にかけて剛毛が波打っていた。
「だから遠慮なく、いつでもおいでよ」

このとき、私に起きたのは奇妙な感情だった。
黒谷が怖くなったのだ。そこまで私を思いやる熱情は
どこからくるのだろう。あの坊主のようにゲイの気があるのではとも考えた。
そして、もういちど黒谷の顔をよく見た。
しかし、突きだした拳の先にあったのは、正直な怒りに
燃えた瞳だった。この人に嘘はない。私は邪念を振りはらった。

「はい。お願いします」
 相談に行くことはないだろうという予感はあった。
「ああ、来なよ、来なよ」
 彼はうれしそうな顔をした。

しかし、皮肉なものだ。寄せ集めの自分勝手な人間ばかりの
飯場のなかで、いつしか自分自身も、開きなおり、他人のことなど
かまっていられるか、と殺伐とした環境に同化しかけた矢先だった。
黒谷のように他人を思いやる余裕と器量をもった人間に出会ったことで、
また以前の「まともな」感覚が自分のなかによみがえってしまった。

でも、これでよかったのだ。見知らぬ人間に対する警戒や対抗心から、
私は本当に大切な理解者を失うところだった。
理解者とは平松であり、黒谷であり、まだ気づいていないところで、
19歳の私を静かに見守ってくれている、だれかなのだ。

      飯場生活5日目18:00-18:20  ~ To be continued
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投稿者 Napori Takao : 10:37 | コメント (2)

コメント

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投稿者 日本ブログ新聞 : 2007年06月11日 17:56

日本ブログ新聞さんへ

お誘い、ありがとうございます。
HP拝見しました。検討させていただきます。
できれば、読む人にクリックしてもらわなくても
カウントされるようなランキングのシステムが希望なんですが、
なかなかむずかしいんですかね~

投稿者 ナポリタカオ : 2007年06月12日 11:26