2007年06月05日
第7章 飯場の顔 ~車内の攻防
5時に終了するはずの作業は7時まで伸びてしまった。
残業代が出ないと知っている土工たちは不満を顔に出して
作業に従ったが、だれも文句を言わない。
帰りの運転席に乗りこむと、行きのメンバーとちがい、
口うるさい厄介者集団が乗っていた。
車にはそれぞれ勝手に乗りこむので、多少メンバーのちがいは
あるのだが、徒党を組む者たちが乗り込んでくると、
それだけで車がいっぱいになってしまう。茨城弁の坊主もいる。
最悪の状況で最悪のメンバーだ。
出発とともに、土工たちの不満が爆発した。
彼らはタヌキへの呪いの言葉を吐きちらした。
現場や一人では雛鳥のようにおとなしい彼らは
同郷者が集まると人格が変わってしまう。
あいにく、帰りがけにいつも立ちよる酒屋が休みだった。
彼らの憤りは頂点に達した。
「なんだよ、休みでねえかよ!」
「閉まっちまったでねえか、運転のろのろしとるから!」
男たちは酒屋一軒、閉まっていたことで、あわてふためいていた。
しばらくして、悠然とかまえていた伊藤が言った。
「ほかに開いとる酒屋がある。おい、そこの道まわれ」
結局、遠まわりをして、彼らは酒とつまみにありついた。
少なからず体育会系育ちの私は、目上の者に敬意を払う習慣を
身につけてきた。だが、他人より数十年も長く生きてきたにも関わらず、
自らの人間性を育まず、他人にとって毒にも薬にもならない人間が
いるのだということに、ある意味で衝撃を受けた。
人間性の高い、低いは必ずしも生きた時間に比例しないのだ。
それからの私は彼らを相手にせず、騒いでも無益だと骨の髄まで
わからせる作戦に出た。いくら年季の足りない「アンちゃん」だろうと、
ハンドルを握っているのはこっちだ。権限はこちらにあるのだ。
私はなにか言われれば、「はい、はい」などと答えたが耳を貸さず、
涼しい顔でハンドルを握っていた。
が、1.5リットルのビア樽を飲みほした伊藤が、
この日はとくに疲れていたのか、かなり酔ってしまった。
私も暗くなると、覚えた道でもわかりずらい。
伊藤が左右をまちがえて指示し、それにだれも気づかず、
かなり走ってからもどることもあった。あいにく道も混んでいる。
うしろの連中が、「早く行がねが!」とせかす。
言いなりになってもし事故でも起こしたら、こっちが損だ。
ここは腹がたってもガマンするしかない。
飯場生活4日目14:20-20:00 ~ To be continued
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