2007年06月04日

理屈はいらない

「ちょっと腹が痛いんで、休ませてもらってます」
「なんだと? おめえは腹が痛えかもしれねえが、ほかのだれも
 痛えなんて言ってねえじゃねえか、バカ野郎! おめえだけ休ませる
 わけにはいかねえんだ。どうしても休みてえってんなら、仕事やめろ!
 さっさと田舎帰って、お母ちゃんのおっぱいでもしゃぶってろ!」

 私はカッと頭に血がのぼり、タヌキを睨みつけた。
「堀内はな、ずっと昔、俺の下で働いてたんだ。あいつはぶっ倒れるまで
 仕事したもんだ。だからあいつが休んでても俺は文句ひとついったことは
 ねえんだ! バカが! おめえもくやしかったら、ぶっ倒れるまでやってみろ!」
「倒れりゃ仕事やったことになるんですか。
 オレはぶっ倒れないけどやってますよ!」
「なんだと、わかったこと言うんじゃねえぞ、ガキ!」
「堀内さんが倒れたのは体力がなかっただけじゃないんですか?!」
「ボケカス! くそガキ! どうしても休みてえってんなら、
 仕事やめろ、やめちまえ! バカ野郎!」

タヌキはなにか反論されると、自分のなかで論理の崩壊を起こし、
最後は「ボケカス! バカ野郎!」で強引に事をおさめるのだ。
しかし、私はそれ以上、抵抗しなかった。奴隷という立場の弱さが
言葉を飲みこませたのだ。逆らえば無一文で放りだされてしまう。
最後までやりぬくという自分との契約もある。
守らなければ私は自分の決めたことさえ守れない、屑になってしまう。

 立ちあがり、スコップを持つと、また背中に罵声がとんできた。
「俺が仕事を教わってたころは、口で怒られるまえに
 石がとんできたもんだぞ!」
 やりたきゃやってみろ。
「男を教わるのに理屈はいらねえからな!」
 立場の弱い者や老人に威張りちらしてる、おまえが男か。
 そんなものが、おまえが教わってきた男の生きざまか。
 早く「まともな社会」に復帰して、お前を見返してやる。

盲従に慣れてしまったほかの土工とちがい、私は若く、人生の
選択肢が豊富にあった。土工になりたくてここに来たわけでもない。
だからこそ、感情に素直で反抗的だった。今になってふと、もしかしたら
そのエネルギーにタヌキは期待したのかもしれない、などと思う。

      飯場生活4日目13:20-14:00  ~ To be continued
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投稿者 Napori Takao : 10:29 | コメント (0)

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