2007年05月18日
土方の命
朦朧として歩きながら、スニーカーについている白い粉に気づいた。
よく見ると、Tシャツやジーンズから塩がふき、スニーカーまで続いていた。
靴からふきだした塩はどんな味がするんだろう。
固形だから、純粋な塩味だろうか、などとぼんやり考える。
はあ、はあ、と肩で息をしながら見上げた空は、憎らしいほど青かった。
太陽は狂ったような熱を照り付けて、あざ笑う。
「運転手をやる土工は仕事も優遇して、きついことはやらせないよ」
昨夜、私に耳打ちした堀内の顔が浮かんだ。
あれも嘘だったか。これが毎日なら、まともな体でアパートに帰れない。
モルタルを運び終えた坊主頭の男が、運転席から
ニヤニヤと高見の見物をしていたが、タヌキに見つかった。
「おめえはなにやってんだ、このボケカス! おめえもやれ! 早くやれ!」
「いや、まだモルタルが来ねえがら、運べねえっぺ」
「モルタルなんて、もういい! 早くやれ、ボケカス!」
「いんや、スコップがねえがら」
「スコップならそこにあんだろが、バカ!」
坊主は茨城弁でのっそりと言い訳をしたが、タヌキが聞くはずもなく、
ますますうるさく怒鳴るので、しかたなく手伝いはじめた。
「調子のいい野郎だぜ、ふざけやがって」
菅谷が坊主を睨みつけて言った。毛嫌いしているようだ。
他人が怒鳴られているときは手を休める絶好の機会だ。
坊主が手伝わなかったのは腹も立つが、彼がタヌキの
注意をひきつけてくれれば、こちらは助かるのだ。
私たちは持ち場からほんのわずかでもタヌキが消えると休憩した。
炎天下にこんなペースでやっていたら躰がもたないことぐらい、
素人の私でもわかる。しかし、タヌキはそんな土工の心理を
とっくに見ぬいていて、すぐにもどってくる。
見つかってもすぐに体制を整えられるように、私たちは立ったまま
休んだが、菅谷はまたスコップを放りだし、すわりこんだ。
が、とうとう見つかった。
「なにやってんだ、てめえ! バカ野郎! スコップは土方の命だろうが!
これがなくちゃてめえら飯食っていけねえんだぞ!
道具もだいじにしねえ野郎はろくな土方にゃなれねえんだ!
このまぬけ! ボケカス!」
タヌキの怒声を浴びた菅谷は、背中を丸めて仕事にもどった。
飯場生活2日目14:30-15:30 ~ To be continued
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投稿者 Napori Takao : 10:47