2007年05月16日
ささやかな抵抗
午後になると、タヌキはべつの傾斜地に私たちを連れていった。
午前中に掘ったのとおなじ溝がすでに掘られていて、
傾斜に沿って下へ50メートルほどつづいている。
溝の内部には金属板が固定されていた。
タヌキはその傾斜を見おろして、顎をしゃくった。
「おめえら、スコップで運んで流しこめ」
足もとには3メートル四方のベニヤ板があり、
煉られたモルタルが山となって置かれていた。土工たちは一瞬、
ぽかんとした顔になった。ベテランの土工が口をとがらせた。
「こりゃ上からポンプで流したほうが早えですよ」
「だめだ! バカだなおめえは! そんなことしたら上のほうの
モルタルが重みで全部下に流れちまうだろ、早くやれ!」
タヌキよりもはるかに年上のベテラン土工は、
しゃがんで練ったモルタルの感触を指先で確かめた。
「いや、このモルタルだったら、流れやせん」
「うるせえ! 早くやれ!」
タヌキはさえぎった。べつの土工も抵抗した。
「そんならそれで、バケツやネコ(一輪車)で入れねえと」
「うるせえ、言われたことだけやりゃいいんだ!
わかりもしねえで ゴチャゴチャ言うな!
オラ、やれってのがわかんねえのか、このバカが!」
土工たちの鬱屈した憎悪がタヌキに集中した。
タヌキがいないときだけ威勢のいい菅谷は、うつむいたまま、
唇をかみしめている。タヌキは童顔のせいか、強がっている子どもに見えた。
目の奥には恐怖が感じられる。屈強な土工たちが束になって、
飛びかかってくるのを怖れているのかもしれない。
しかし、こちらにはひとりひとりに生活がある。
刃向かう者はいなかった。
飯場生活2日目13:00-13:20 ~ To be continued
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