2007年05月15日

第5章 人間焼肉 ~蟻を食う

「蟻だ……」
 顔をしかめた私に、平松がうなずいた。
「山の蟻が入ってくるんだ。車のなかに置いといても
 こんな調子だよ。まったく人間の食いもんじゃねえだろ?
 中身は食堂の野郎が昨夜作ったヤツだから、
 いたんでるかもしれないよ。気をつけたほうがいいぜ。
 ちぇっ、底のほうにもいやがる!」

 平松はぶつぶつ言いながらも、蟻をはらって食いはじめた。
 それにしても、この高温で死なずに食い物をあさる、
 蟻の生命力にも驚かされた。
 蟻をはらって食っていると、突然、かたい食感があった。
「あっ」
「どうした?」と平松。
「蟻食っちゃいました」
 弁当の飯粒のなかに体を突っ込んだまま、高温にやられて、
 死んでいる蟻がいたらしく、気づかずに食ってしまったのだ。
 味はなかった。平松が笑った。
「ハハハ、カルシウム、カルシウム」

 あっというまにひと箱食った平松が、
 あまった弁当を物色しながら言った。
「名堀君、まだ弁当あまってるから食いなよ。
 まずいけど食わなきゃ体がもたないよ」
「はい、そうさせてもらいます」

小遣いに余裕がある者たちは、「こんなもの食えん!」と、
近所にあるラーメン屋に出かけていくので、この現場では
必ず弁当があまるらしい。以後、私はいつも2人前を食った。
蟻をはらいながら食うのは初日こそとまどったが、
やがて違和感も感じなくなった。
しっかり食わなければ、次に倒れるのは自分なのだ。

 菅谷が食えそうなものだけ飲みこみ、
 残りをいまいましげに土にぶちまけた。
「ちくしょうが! ひでえ飯食わせやがって!」

      飯場生活2日目12:10-13:00  ~ To be continued
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投稿者 Napori Takao : 09:18