2007年05月07日
不信感
車内は息もつけない密室だった。
私は運転のミスや要領の悪さについて、後ろから怒鳴られた。
後方の確認でバックミラーを見ると、同部屋の麻井がうつっていた。
彼が車に乗っているのに、今頃気づいたのだ。
麻井はジャイアンツといっしょに私を笑っていた。
彼らは怒鳴りこそしないが、こちらをかばうような態度など、
まったく見せない。ジャイアンツがどうしようと気にしなかったが、
部屋では私に敬語を使う麻井がそうしているのは、
心が冷えるようだった。一見親しげにふるまっていても、
結局、ここではだれが敵か味方か、わからないのだ。
現場についたのは7時40分だった。
あれだけ急げとせかしたのに、8時の作業開始に十分まにあっている。
空地にバスを停めると、「お疲れさん」のひとこともなく、
男達は待ちかねたように、さっさと車を降りていく。
感じの悪いタクシーに乗ったあとのような、憮然とした態度だった。
私はしばらく、運転席で虚脱してしまった。仕事前からヘトヘトだ。
帰りもあるのだという現実が頭をよぎったが、それを考えると
おかしくなりそうなので、頭の隅に追いやった。
屈辱感の底で、悔しさと怒りがこみあげてきた。
オレはここにいるあいだに、いつかこいつらと対等になってやる。
だれにも文句を言わせない男になってやる。
私は誓った。そう思わなければ、この先やっていけなかっただろう。
車を降りると、平松が待っていて、声をかけてきた。
「迷った?」
とっさに、作り笑いで答えた。
「はい。いろいろ怒られました」
「うるせえだろ、あいつら?」
「ボクも悪いんです。運転下手なんで」
ほんとうはいろんな思いをぶちまけたかった。
しかし、麻井に感じた不信がそうさせたのだ。
今は標準語を使っている平松だが、彼が青森生まれ
だとすれば、さっきの集団のだれかと通じているかもしれない。
その場合、こっちの言動はつつぬけだ。明日も彼らを乗せる可能性が
ある以上、自分の立場を悪くするわけにはいかない。
たしかに平松は疑うような人物ではないかもしれない。
だが1時間半の運転で思い知ったのだ。同部屋といえども味方ではない。
自分の身を守るために、まわりの人間を見極める必要があると思った。
本心を隠し、強気でふるまう私の態度を見て、平松はちょっと
がっかりしたような表情を見せたが、それ以上ふみこまず、去った。
「すみません、平松さん……」
心でつぶやいた。
飯場生活2日目07:30-07:50 ~ To be continued
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