2007年04月30日
言葉のハンデ
「右じゃないんですか?」
「ちがう!」
「……すいません」
聞き違いかもしれない。とりあえず、あやまった。
ところが、次でも同じことが起きた。
「そこヒダリ」
「はい」
左折すると、また怒声が響いた。
「ちがう!」
「左じゃないんですか?」
「ヒダリだ!」
「いや、だから、あの、左に行ってるんですけど」
伊藤は東北出身らしく、訛が強かった。
本来は無口なのだろう、こもったようなモソモソした
しゃべりかたが、聞き取りずらさに拍車をかけていた。
つまり、「その角を右」と本人は言っているつもりだが、
こちらには「左」としか聞きとれないのだ。
私はなんども道をまちがえ、そのたびに怒鳴られた。
「ちがう!」
言葉を聞き取れないハンデまで、こっちのせいにされるのか。
ここは東京じゃないか。東北じゃない。
新入りの言い分など、許されないのか。
無頼の徒が集まる男だけの社会には、
理不尽だろうと、ここだけのしきたりがあるのだ。
私はオンボロバスを乗りこなすだけで精一杯だった。
これ以上、よけいなことに気をまわさないように、
右と言われたら、片手を動かして「こっちですか?」と
わざわざ確認しながら運転した。それでも角でいきなり
指示を出されると思うようにいかず、なにかあると怒鳴られ、
「すみません」とあやまった。
そんな私の目の前に、急勾配の坂が迫ってきた。
飯場生活2日目06:50-07:10 ~ To be continued
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