2007年04月16日

風呂場は大混雑

挨拶もそこそこに、平松があわただしく私をせかした。
 「じゃ、風呂行こうか」
どうしてそんなに急ぐのだろう。
あわててついていくと、風呂場には土工達があふれていた。

全身に刺青をいれた者、青々とした筋だけを彫った者も数人いたが、
彼らは遠慮がちに入浴していて、ほかの者も特別な目で見ないようだ。
多くの者はいわゆる土方灼けで、首から上と、
半袖シャツの切れ目の下からが黒々としている。
白い胴から伸びた黒い腕はべつの生き物が接着しているようだ。
それらは、熱い湯を受けるとオイルをかぶった
節足動物のようにぬらぬらと動いていた。

風呂場は15畳ほどで、奥に檜の浴槽があるが、
ここには3、4人しか入れないようだ。
慣れた土工達は順番を見はからい、要領よく交代で
出入りしているが、新入りの私には流れに乗るタイミングが
むずかしそうで、浴槽の入浴は早々にあきらめた。

手前には銭湯のようなシャワーが10本程度あるが、
土工の数が多いので、入り口で服を脱いで順番を待った。
そのあいだにもうしろに次々と押し寄せてくる。
15人もならぶと、列の奥から「あー、こりゃだめだ!」
と声がして、数人が部屋に引きあげていった。
今がいちばん混む時間帯なのだろう。
平松がせかしたのは風呂が混まないうちに、という配慮があったのだ。

私は平松の真似をして、開いたシャワーの下へさっと滑りこんだ。
こちらの順番とはべつに、浴槽からあがった男達も
シャワーを使うので早い者勝ちになってしまうのだ。

私はせかされてついてきたものの、
石鹸とシャンプーを持っていないことに気がついた。

 平松がタイミングよく、横からすっと石鹸を差し出した。
「ほれ、今日は俺の石鹸とシャンプー使いなよ」
 石鹸はビジネスホテルにおいてある、使いきりの小さなサイズだ。
「すいません」
「諸式のこと聞いたろ?」
「はい」
「石鹸やシャンプーはあれで買うといいよ」
「はい、明日からそうします。すいません」
「こんなにちっちゃくて300円だぜ」
「これでですか?」
 驚いて聞きかえした。
「ひでえだろ?」
 平松は金歯と銀歯を見せて笑った。

      飯場生活1日目 19:30-20:00  ~ To be continued
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投稿者 Napori Takao : 10:37 | コメント (2)

コメント

なんだかいっそう、男世界になってきましたね。だけどドロドロしてなくて、アッと驚くヒロインが登場して欲しいなあ~なんて、ロマンチックに夢見る私です。その後・・・・ 楽しみに待っています。

投稿者 アーサ : 2007年04月23日 11:38

アーサさんへ

コメントありがとうございます。
あたたかい応援をいただいているのに、ごめんなさい、
この飯場には女性がひとりもいないんですよ。
いるとこもありますが、60才以上ですね~
この先、ほんの一瞬、おばちゃん登場!
もあるんですが、唯一のヒロインといえば、
そういう人たちかもしれません。

投稿者 ナポリタカオ : 2007年04月23日 12:09