2007年04月13日
黒い布団
麻井さん、と呼ばれた男は、奥の布団で寝転がって
テレビを見ていたが、声をかけられてとびおきた。
Tシャツと短パン姿だ。35歳くらいに見える。
「こんど入った新しい人、名堀君。よろしくね」
「よろしくお願いします、名堀です」
頭をさげると、麻井は恐縮して頭をさげた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。麻井です」
2まわり以上も年上の人間に敬語を使われるのは、妙な感じだった。
「じゃ、こまかいことは麻井さんに聞いてね」と言い残し、堀内は去った。
真夏だというのに、冬用の厚い布団を敷いている。
夏冬兼用なのだろう。シーツはなく、
むきだしの毒々しい真紅の柄が眼に痛いほどだ。
すべての男がそのまま寝るせいか、首や肩が接触する
上から30センチ前後の範囲が垢で黒ずんでいた。
ゾッとした。このまま寝るなんて……
薄い毛布も乱れたままになっていて、おきぬけで
飛び出していった気配が残っている。
ふたりしかいないはずなのに、3組あるのはなぜだろう。
麻井はぎこちなくいった。
「あ、すいません。ここ散らかってて」
「平松さんって人と2人なんスよ。もうひとつのは上の」
と、彼は2階を見あげる。
「人なんスけど、上じゃ狭いし、イビキがうるさくて寝られないって、
ときどき寝てくんスよ。あ、そっちの布団つかってください」
彼は隅にたたんである一組を指さした。テレビからいちばん遠い場所、
つまりドア近くの1畳分に空きスペースがあった。
彼はいちいち言わないが、そこがお前の場所だ、ということなのだろう。
2階からくるという誰かはこの部屋に泊まる権利はないはずだが、
先輩風を吹かせるような男なら、いきなり機嫌を損ねてもあとが面倒だ。
とりあえず言われた通り、私は布団を運んだ。
人間とは不思議だ。こんなところのわずか1畳でも
自分が住むことを保障されたとたん、地に足がついた気がして、
安堵感がじんわりと背中をのぼってくる。
落ちついたので、部屋を見まわすと、
ベニヤ板でかこまれているだけで扇風機もない。
たぶん今夜は蒸してたまらないだろう。寝られるのだろうか。
飯場生活1日目 19:10-19:20 ~ To be continued
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コメント
おもしろいです♪毎日楽しみにしています♪
投稿者 スースー : 2007年04月13日 17:54
スースーさんへ
初コメントありがとうございます。
ちらっとブログを拝見しました。
スースーさんは整体の先生なんですね。
あとでゆっくり訪問させていただきます。
励ましのお言葉、ありがとうございました。
投稿者 ナポリタカオ : 2007年04月14日 11:17