2007年04月12日

新入りの挨拶

私は堀内に連れられて、自分の部屋へ向かった。
「作業着は持ってきたかい?」
「あ、持ってきませんでした」
「ああ、いいやいいや、あるから。300円かかるけどいい?」
 やっぱり金か。広く薄くとっていくものだ。

「はい」

 彼はいきなり私に近寄って、耳打ちをした。
「運転手をやってくれる人は、ふつうの土工とくらべて待遇がちがうんだよ。
 仕事は優遇してきついことはやらせないからね。部屋もちがうよ。
 今の人は2階の10人部屋へ行ってもらったけど、君には
 1階の3人部屋へ行ってもらうから。食堂、風呂、洗濯機、トイレ、
 全部近いから便利だよ。ほんとうは4人部屋なんだけど、
 3人で悠々とつかえるからね」

悠々と、を大げさに強調したので私は笑ってしまった。
これだけだまされているのだ、当てになるもんかと、苦笑したのだ。
だが、私が喜んでいると受け取ったのか、堀内は笑顔になった。

「同室のひとりは平松さんっていう人で、おなじ運転手だよ。
 わからないことは聞いたらいい。もうひとり麻井さんって若い人が
 いるけど、この人もいい人だから心配ないよ」

さっきから私は子どもあつかいされているような気がした。
たしかにざっと見たところ、この飯場には10代どころか、20代もいない。
30代もごくわずかのようだ。

そこは長屋のようなプレハブの一室だった。
50センチほどしか開かない窓から堀内は室内を確認して、
開けっぱなしになっていたアルミサッシの出入口にまわり、声をかけた。
「麻井さん」
「あっ、はい!」
 室内は4畳半ほどの広さがあった。4人部屋とは
 1人1畳の計算なのだろう。 ちっぽけなテレビにむかって、
 布団が3組、放射状に敷かれていた。
 それは特別な意味をもつモニュメントから伸びる道路を思わせた。
 娯楽はテレビしかないのだ。

       飯場生活1日目 19:00-19:10  ~ To be continued
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投稿者 Napori Takao : 09:30