2007年04月10日
第2章 男だけの世界 ~殺伐とした食堂
いつの間にか、食堂に入る男達の数が増していた。
彼らはみな、赤黒く日焼けして、汗と泥にまみれたシャツのままだった。
腹をすかせた野獣の群れで入口はごったがえし、待っている者は
苛立っている。置きっぱなしの私達の荷物は邪魔で蹴飛ばされそうだ。
あわててスポーツバッグを隅に移動させると、赤ら顔の男が真似をして、
私の荷物の横に自分のよごれた風呂敷をおいた。
この男は面接したマンションを出て以来、
年齢が2まわりどころか、3まわりもちがうというのに、
私のあとにくっついて、真似ばかりしている。無能な大人め。
なにをやって生きてきたんだ。恥ずかしくないのか。
食事が並ぶカウンターへ向かうあいだも、
周囲からの冷たい視線が突き刺さる。
全身を緊張にこわばらせ、炊飯器のまえに立とうとしたときだった。
驚くべきことがおきた。
それまで私の陰にかくれるようについてきた赤ら顔が、
私を突きとばしながら追いこした。
これまでの鈍重さが嘘のように、動作は素早かった。
その変わり身の速さに、殺伐とした彼の内面をかいま見て、
心が冷え、私は立ちすくんだ。
額の汗や垢をぬぐっていた、赤黒く変色した浮浪者の手が、
しゃもじをがっしりと握り、飯をよそる。
もともとない食欲はさらに減退した。
ふだんなら不潔だと感じて、触れることさえできなかったろう。
だが、これからの重労働を思えば、食っておかなければならない。
おそるおそる指先だけで握ると、ベトベトしていなかったのでほっとした。
飯を白いプラスチックの茶碗によそる。硬めだ。
横に移動して、カレーをかけようとすると、浴衣をだらしなく羽織った
力士のような男がカウンターの反対側から睨みをきかせているのに気づいた。
調理人のようだが、態度の大きさが中途半端だ。
食堂全体を威圧するほどの雰囲気がないところを見ると、
それほど警戒する相手でもなさそうだった。
赤ら顔の男は、皿を持ってうろうろと席をさがしている。
私は仲間だと思われたくないので、はなれてすわった。
しかし、普段着の私達はあきらかに場ちがいで目立っていた。
部屋に行って早く着がえたかった。彼らと同じカラーにそまって、
刺すような視線から開放されたかったのだ。
が、考えてみると、私は着替えをもってこなかったことに気づいた。
飯場生活1日目 18:00-18:30 ~ To be continued
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これから登場するキャラをわかりやすくするために、かつてエントリーで入れた
「主要登場人物」に、ときどき手を入れています。参考にしてくださいね~
投稿者 Napori Takao : 09:57