2007年02月06日
蒲田温泉・愛(1)
背は低いが、上半身のガッチリした60前後のおじさんが、
黒湯のはいった浴槽にやってきた。
20歳くらいの孫か息子を連れて、温泉の入りかたを教えている。
すると、浴槽の外で休んでいた丸刈り頭のおじさんが、
目を細めてがっちりおじさんに話しかけた。
「失礼だけど、オタクは工場で働いてらっしゃるの?」
「ええ、そうです」
「手をみて一目でわかりましたよ」
「ハハ、そうですか」
「私もね、昔は工場で働いてたんです。
工場やめて今はタクシー乗ってますけど、今でも手を見りゃ
すぐにわかる。ほら、油が爪の間にはいってて、がっちりしてる。
ふつうの仕事じゃ、そういう手にはならない。懐かしいですよ……」
「いやあ、爪に油が入っちゃうとねえ、とれなくてねえ」
「そうでしょ、そうでしょ。私も苦労したもんです。
仕事おわってから×××つけて洗うんでしょ?」
ふたりは手を洗う話にはじまり、今の若い人の
工場務めが続かないという話をはじめた。
盗み聞きもほどほどにして、N氏は洗い場にむかった。
ちょうど脱衣場から50歳前後のお父さんと
小学校高学年の男の子が入ってきた。
男の子はびくびくして、お父さんの腕をつかんでいる。
内股気味に歩いているのは、あっちのケがあるのだろうか。
たしかにかわいい顔をしているが……
それとも銭湯が初めてで緊張しているのか。
人見知りするタイプなのか。
お父さんは「気をつけなさいよ」と言いながら、子どもを洗い場に案内する。
子どもに風呂桶をわたすお父さん。
銭湯になじみのある読者の方なら、よくご存知だろう。
黄色のプラスチック製、赤い文字で「ケロリン」と書かれた、あれだ。
子どもは片手にブラブラと風呂桶を持った。
「人に当たらないように気をつけなさいよ」
言ったそばから、ゴツン!
それはN氏の背中を直撃した。
To be continued
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