2006年12月11日

帰らせたくない女と帰りたい男(1)

世田谷区内のドトール、18時30分。
カウンターのガラスごしに見える駅前の風景。
30前後の女がカウンターにすわって、視線を泳がせている。
しばらすると、20代半ばの青年が現れた。
スーツ姿、刈り込んだ短い髪。爽やかな表情だ。

「あ~すいません! あ、A子さん!」
「フフフ、だれが待ってるって言われたの?」
「いや、先輩で話したい人がいるって……」
「フフフ、私じゃないと思ったぁ? Bくんもなにか飲めばいいじゃん~」
「いや、いいです。今日は早く帰らなきゃならないんスよ」
「なあに?」
と一瞬、恐ろしい表情を見せる女。
「彼女?」
「いや、あの、今日は車で来てるんで、運転して帰らなくちゃいけないんすよ」

 女は動揺を隠しながら笑顔をつくる。
「なあに~最後だから、彼女を乗せてドライブでもするのぉ?
 やけになって、とばしちゃったりするのぉ~?」
「しませんよ、こんな時間から」
「……ねえ、なんでやめちゃうのよぉ?」
「はは、まあいいじゃないすか」
「なんでなのよぉ~」
「はは」

「今日、専務と話したでしょ?」
「はい、初めて話しましたよ。今までなに考えてんだか、
 まったくわかりませんでしたからね。最後になって初めてです」
「なんでやめちゃうのよぉ~?」
「いや、そろそろかなと思って。給料も安いし」

「それにしても突然じゃん? 今日じゃなくても」
「そういうわけでもないですよ。今日で定期が切れちゃうし」
「そういう問題じゃないでしょう」
「いや、大きいでしょ。定期が切れてまで、来たくないし」
「そんな小さなことなの?」
「だって、もったいないじゃないすか」
絶句する女。
男はすでにふっ切れた表情だ。
女は話のきっかけをさがしはじめた。

                          To be continued
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投稿者 Napori Takao : 11:34 | コメント (0)

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