2006年05月26日

テーブルの上の悪魔

あの事件を聞いたのは、もう十以上年も前になる。
この話をしてくれた彼女は、いまだ独身だが、
先日、「部長職に出世したらしい」と聞いて思い出したのである。
以下、新宿のある居酒屋風パブで起こった、惨劇の一部始終である。

「若い男が三人、テーブルで飲んでたのよ。
年はまだ若かったわ。20歳ちょっとかな。
一人がだいぶ酔ってたんだけど、どうもその子が仕事のことかなんかで、
ほかの二人にいろいろきびしく言われてたみたいなの。
そのうちにその子は『わかったよ、うるせえな!』とかなんとか言って、
テーブルの上に急に立ちあがっちゃったのよ。なにするんだろう? って、
私たちポカンと見てたら、いきなりファスナーを下げて……」

排泄作業を始めたのである。
安心してほしい、彼がしたのは排尿だけである。

「もう驚いちゃって。お客さんは悲鳴をあげるわ、どなり散らすわ、
だけどきたなくてだれもそばに寄れないわで、店内が大パニックよ。
だってそいつ、よりによって、360度回転して撒き散らしたんだから!」

その360度の『放水管』を、彼女が凝視していたのかどうかは不明であるが、
男はすべてを終えると、そそくさと店を出ていってしまった。
仲間の男たちも金を置いて店を逃げ出した。
気の毒なのは店のスタッフである。
客が蜘蛛の子を散らすように帰ってしまった店内で、
全員が素手で雑巾を持ち、あたり一面、
びしょびしょのテーブル、椅子、床を拭いたのである。

そこへ、さすがに良心の呵責にたえかねたのか、
仲間のひとり(本人ではない)がもどってきて、
友人の非礼をあやまりながら掃除に参加したという。
悪逆非道な事件のなかで唯一、心のあたたまるエピソードである。
このときの雑巾をいまでも店で使っていないことを祈るばかりだ。

  The End
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投稿者 Napori Takao : 16:39 | コメント (0) | トラックバック (0)

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